インスタントセックス

エロにおける自制心を捨ててイギに欲望に正直になってもらいました。うずひさんに捧げます。


 手寂しいと,思った。
 それはまぁ,男としては仕方ない欲求だと思う。だって,かれこれ一ヶ月以上,していない。していないというか,交わっていない。一人でならば,生活に支障のない範囲でやっているが,いかんせん今日はフランスが来るといっていた日だ。
 断じて彼のためではなくて,ちょうど仕事がばかみたいに立て込んでいて,部屋が散らかっていたからたまたま片付けただけで……と自分に言い訳をして,しかしそれも良い具合に収まって,あとはフランスが来るのを待つだけだから,とりあえずベッドに座って一休み,という段になって,ふと気付いた。
 手寂しい。
 もう少し端的に言えば,うずく。
 あけすけに言ってのければ,溜まっている。
 どうしよう,とイギリスは考えた。知覚してしまった段階で,抜かないという選択肢はイギリスの中にはない。だって,このままどうせフランスが来れば夜には縺れこむことなど分かっている。まして,一ヶ月以上だ。うっかりすれば彼のことだ,玄関先で出迎えるなり,ということがありえないわけでもない。そして,自分もきっと玄関先で壁に押し付けられて,あつい唇を重ねられた段階で流されるに違いない,ということを想像しただけで,溜まっていたところはゆるく勃ちあがった。
 だってほら,とりあえず抜いておかないと,トコロテンなんて笑えない。
 いや,フランスは笑うんだろうけど,あのエロい声で笑われるとか考えただけで,ちょっと,押さえが利かなくなってきた。もともとやましいことに対してあまり我慢をしないイギリスは,スラックスと下着をくつろげた。
 だって,いくところを見られて笑われるなんて,冗談じゃない。
 取り出したものはしっかり勃っていた。フランスの声を鼓膜の中で再生しただけで,興奮する自分も大概だと思う。エロ本を探してきてオカズにしてもよかったが,それをするには少しもう自分が出来上がっていた。断じてフランスを思い出しながらするんじゃなくて,フランスのせいで気持ちよくなってるあの感じを思い出してするんだからな,とイギリスはまた自分だけにしか意味のない言い訳をする。
 は,と息を吐き出す。
 自慰にそんな焦らしたりすることは必要ないから,さっさと右手の親指と人差し指で輪を作り,括れを擦る。少し扱いたところで,窓の外の車の音が聞こえた。
 そういえば,これを見られるのもまたいろいろとまずい。
 しかし,イギリスはフランスが何時来るのか知らない。
 どうしよう,とイギリスは又迷う。こんな現場を見られたら,いろいろと言い訳が出来ない挙句に酷い羽目になるのは火を見るより明らかだ。迷った末に,とりあえず一度右手を離すと,ベッドサイドのテーブルにおいてあった携帯に手を伸ばす。
 そして昨日の晩に電話をしたところだから,着歴の上にいるフランスに電話をかける。イギリスの予想では,いまごろユーロスターを降りたところ。そこからイギリスの家までは,おおかた30分。手早く抜けば間に合う。
 確認だけ取ろうと思ったのだ。
『アロー?』
「お前もうユーロスター乗った?」
『唐突だなぁ,もう着いたよ』
 予測どおり,どうやら駅にいるらしい。それさえ確認できればもうあとは良い。こっちはさっさと抜いて,そのそれはそれで,良い状態でフランスを迎えたいだけだ。じゃ,待ってる,と言おうと思ったけれども,待ってるって言うのもどうかと思う,と携帯を持っていない左手で自分の膝をぺち,と叩いて嗜めようとしたところ。
「んっ」
 良い具合に,いやこの場合何も良くない,括れを指が掠めた。
 携帯越しにこの声が聞こえているといろいろとまずい,イギリスは思わず一瞬息を呑んだが,そうとは気付かなかったらしいフランスはからかうような声で,ある意味本質を突きすぎている発言をしてきた。
『お前いまちゃんと服着てるかー?』
「は,はぁぁぁ?」
『いつものくせで脱いでないかー?』
 こいつたぶん駅の往来の中にいるのに何言ってやがる。
 思ったけれども,気付かなかったくせに一足飛んで本質を突いて来るフランスに,思わず一瞬言葉を失ってから,ばかぁと意味のない罵声を叩きつける。それで人並みの格好をしているわけではないらしいと察したフランスは,たぶんあのいやらしい笑顔を浮かべたのだろう,そして。
『下,どうなってんの』
 やばい絶対流される。
 イギリスは唾を飲み込んだ。
 だっておかしい。フランスはいつもどおりからかって,自分が服を着ていないことをすこしいやらしく揶揄しているだけなのに,自分の方がうっかりスイッチが入っているものだから,その声で思わず,自分の後孔がひくついた。
 その拍子に,声が内側から零れた。
「ぁっ」
 聞かれた,絶対聞かれた。
 ついでにフランスの表情まで想像がつく。
 ああもうなんで手早く抜いてから電話しなかったんだっけ,あでも直接見られるよりはマシだと思って電話したんだった,っていうかあいつ駅で何やってんだろ,猥褻物陳列罪で捕まるぞ,とかいろいろ考えたけれども,結局自分が快楽に流されそうなことに変わりはない。
 ふと気付いた,この電話を切ってしまえば良い。
「とりあえず,切る,来るの,待ってる」
 なんとか切れ切れにそれだけ吐き出したけれども,フランスは,イギリスがそれを言い終えるよりも早く,口を開いていた。
『切ったら寂しい。イギリス,声聞かせて』
 あんな低い声,携帯だから耳元で聞かされたら。
 もう一度,後孔が他ならぬ彼を求めてひくついた。
 思わず,左手が勃ったままの性器に伸びて,だけれども必死に手を止める。このまま流されたら結局トコロテンも何も変わらない。彼にいかされるのは嫌いではないけれども,こんな,卑猥な,電話でだなんて。イギリスも日頃ならばこんなシチュエーションは嫌いではない。だけれどもそれが自分の身に降りかかればそれは別だ。
 そんなイギリスを全て見抜いて,フランスは畳み掛ける。
『お願いイギリス,早く,イギリスが欲しい』
「欲しいって,まだ,声だけ」
『うん,電話越しの声だけでも良いの。お兄さんが着くまで,頑張ってよ』
 イギリスは,寝室の壁にかけられた時計を見た。
 今,ユーロスターで着いたのならば,あと30分。電話越しにいかされるだなんてみっともなくてどうしようもないけれども,それでも直接目の前でいかされるいたたまれなさと天秤にかければ我慢が出来る。何より,いま自分が我慢できない。
「しょ,しょうがねぇな! 俺が我慢できないからするだけだからな!」
『ありがと,イギリス』
 その声は卑怯だ,と思いながら,スラックスと下着を脱ぎ捨てて,左手を性器にかける。携帯を持っているほうの右手が辛くならないように,右半身を下にして横になった。
 ああもう,こうなったらさっさと抜いてしまうに限る。追い立てるためだけに,括れを擦ったけれども,利き手でない左手では上手く追い立てられない。
「うっ……あっ」
『いま,片手?』
「うん…」
 答えると,うん,って素直で可愛い,とかまた言われて,可愛いだなんて信じてはいないはずなのに,またぴくりと後孔が震えた。さきほどよりまでも少しだけ堪えきれない声が零れると,携帯の受話器はきちんとそれを受け止めて,フランスに寄越していたらしい。
『イギリス,可愛いよ。早く会いたい』
 容赦のないフランスの甘い声が耳から脳髄を融かす。
「うぁっ……ん…」
『両手で擦ってみたら?』
「だぁって,携帯…」
『耳の上辺りにおいてたら大丈夫だよ』
 それもそうか,と思いつつ,それでいいのか,とも思いつつ,だけれどもイギリスはフランスの言うとおり,携帯を側頭部辺りに置いて,それから両手を性器にかけた。
 片手で竿を支えて,片手で亀頭を擦れば,さすがにいろいろと我慢できない。
「ぁあっ,もぅ…」
『おーい,イギリス,聞こえてっかー』
 手元に置いて声を吹き込むわけではなくなったので,少しフランスから声が遠くなったらしい。だけれども構うことができずに,ただ喘ぐことしか出来ない。
『ん,もっと声出せる?』
 出せるといわれて出せたら苦労しないばかぁ! と怒鳴ってやりたいのは山々だったけれども,不思議とその声に逆らえない。声を出そうとしたけれども,吐き出す息がひっかかって,どうしても,っ…,あ,とか,そんな音しか出せない。
 断じてそんな,我慢なんてしているわけじゃないけれども。
『我慢しないで』
 そんなことを言われたら,咽喉元辺りで引っかかっていた羞恥とかそういうのが一気に音になって押し出されて,せめてもの抵抗に,嫌ぁ…とか言うだけは言ってみる。
 もちろん意味はなくて,
『や,じゃないよ』
なんて余計に酷い言葉に押し切られて。それでも声を絞り出していたら,最初遠かった受話器とのあいだを埋める程度の声量は出てきたようで,フランスは甘い声で,そう,上手,と言ってくれた。
 それを聞いたらなんだか安心して,早く彼に会いたい,という気持ちは自分も本当で,それをどうにかして伝えたくて,とりあえず,ふらんす,と名前を呼んでみた。
『うん,もっと,聞かせて』
「ふ,ぁ,…ん,す…っ」
『もっと,もっと』
 ずるい。
 こんな声,耳元で。
 この際徹底的に甘やかされるのも良いかもしれないとふと思った。だから,イギリスは,せいぜい電話越しで,声だけで,と思って,気分が良いから甘えてやることにした。
「…まえ,呼…でっ,ぉ,おれの…ッ」
 前言撤回。これでは自分が何を言っているかわからない。
『うん?』
 聞き返してくるフランスの声は相変わらず以上にずるいけれども,もうそれをどうにか指摘する気力は今のイギリスにはなかった。ただ,安心させて欲しいのだ。
「な,まえっ,ぁ,俺の,呼んっ…」
『うん,イギリス』
 フランスに名前を呼ばれて安心するなんて,正気の沙汰ではないと思うけれども。
 けれども,今こうして姿が見えないまま乱されて,あの声が可愛いとか囁くだけでこの体はこうして乱されて,だったらせめて名前を呼ぶ位してくれても良いと思う。
 自分を特定する,たったそれだけの音節。
 それをフランスが口にしたら,安心できるかと思ったけれども,余計に体の中に熱を叩き込まれてしまった。だって,あんな低い声,ずるい,腰に来て。
「あ,あっ,フラン,ス」
『イギリス,へいき?』
「ぁ,も,だめっ」
 前だけじゃなくて,名前を呼ばれたら,後ろまでひくつき始めて。やばいなぁ,と少しだけ冷静なところが考えた。駄目,だなんて,発言として可愛すぎて,自分が言ってはいけないだろう。案の定,フランスの低い笑い声が耳元から聞こえる。ずるい。
『もうちょっと我慢してみて?』
「…ん,やだぁ,い,き…たいっ……むりっ,あっ,ふら,」
 こんなこと,言っちゃって。
 自分が男だったら,いや男だけれども,絶対ほだされるに決まっている。やだぁ…って,とか言いながらフランスが笑った。何か言ったようだけれども,もう聞き取れなかった。大体フランスを前にしてこんなことを言えるわけがない。彼相手に欲求に素直になってしまえば,もうそれこそ精根果てるまで抱き合う羽目になる。ちなみにそうならなかったためしはそれはそれでないけれども。
 とにかく,一度吐き出したい。
「フランスっ,あっ,ぅあ,ああ,ぁ」
「はいはーい,お兄さんだよ」
 そしてそこで,とりあえず意味が分からない。
「え?」
 携帯からは,通信が切断された,無常な電子音。
 とりあえず驚きの余り性器から手を離し,壁にかけられた時計を見やる。先ほど電話してから,まだものの十分と経っていなかった。そんな時間でここまで追い上げられてる自分,とか思ったが,いやいや問題はそこではなくて。
「うわあああなんでおまえがココに居んだよおおぉぉ」
「そっち行くっつったじゃん」
 乱れてるねー,とかいらないことを言いながら寄って来るフランスは,見慣れたやらしい笑顔を浮かべていた。それでもまだ納得がいかないイギリスだけれども,だからといって今更収まりの着かない性器を見遣られると,もうそれだけでまた体の中を熱が駆け巡った。いちいちひくつく後ろが,嫌になる。
「話は後。とりあえず,イギリス,いっちゃいなよ」

***

ぐだぐだやってる後編(本格的にR18なので高校生以下の方はご遠慮ください)。
テレセクのくだりはうずひさんの漫画を文字に起こしてみました……
かわいいあのシーンがこんなん。我なららどんびきだわ。
20081110