かくてこの身はどこに溺れる

鮮やかに溺れなければ,もうどうしてもあの記憶を脳裏から剥がせない


 もっとずっと自分が幼かった頃,スペインはまさか自分を抱いたりはしなかった。そういう情勢にも無かったころの彼の相手は,もっぱらあの綺麗なひとだった。いまでもあのジャガイモ野郎と暮らしているあのひとはロマーノにとって呪縛と言えるほど美しい。
(俺の綺麗なものの定義は,あのひとにつかまったままなんだ)
 スペインの背中に手を回しながら,考える。
 いまこの身に埋め込まれているスペイン自身が,かつてあの人のなかに埋め込まれていた。
 自分と弟がシエスタをむさぼっていると思っていたからやったのだろう。そんなことあってしかるべきことだ。それでもあの2人が交わしていた情交を見てしまったのは,きっとこれから幾年も続くこの一生にまとわりつく記憶なのだろう。いまこうしてスペインに抱かれながらそれでもまだロマーノは,あのローズブラウンの髪が揺れるのを思い出す。頭が真っ白になるまで抱いてくれなければきっと消えやしない。ふとした瞬間に過ぎるこの記憶はそれでも嫉妬だけじゃない,憧憬を含んでいる。
(だって俺はあんな綺麗に喉を晒して仰け反ることなんて一生できない)
「ロマーノ,何考えてんの」
 スペインとあわせる肌はひどく汗ばんでいて,彼が今自分に溺れてくれていることだって良くわかっている。
 目を瞑り後ろを意識すれば,力が入ってしまってスペインが小さく呻いた。つられるように目を開けたのは,中を強く擦られて反射的なものだ。額から頬へ乗せた手を滑らせて,スペインは確かめるように,なぁ,ロマーノと答えを催促してくる。
「お前のこと」
 嘘なんかこれぽっちもついていない。スペインは嬉しそうに蕩けるように笑うと,ありがとう,と呟く。その笑顔は卑怯で,まるであの頃の記憶を持っているロマーノのほうが悪いような気がして,その表情を見なくて済むようにスペインの首筋に顔を埋める。スペインは何も疑わなかったのか,そのままロマーノの身を突き上げる。たまらず上がった嬌声のままに,あの記憶を今度こそ白く塗りつぶしたくて,ロマーノも自分の腰を使う。
 スペインに白い喉を見せ付けるように仰け反りながら。
 彼は誘われるようにロマーノの喉元に噛み付く。そしてこうしてどんどん自分の記憶を上書きしてくれれば良い,何を言っているかわからないくらいに理性をいかせてから,ロマーノはただスペインの名前を呼びたいと思っている。

***

西墺時代を見てしまっているロマーノが一生それを忘れられないで抱かれてたら良い。っていうか私は西ロマを幸せにしてやろうとは思わないんだろうか。いやほら,親分は今はお前だけだって後から宥めてくれるはず。うん。親分,がんばれ←
温いエロですいません。エロを書きたいというより,書きたいシーンがエロの中で無きゃかけないだけなので,エロ書くのは割と不得手です生々しさを追求してしまって。
20080814初出