永遠は光の速さで

「厭だぁぁ」「ぎゃあぎゃあうっさいな口縫うぞ!」


※ガリ男の名前が不明なので仮に「エルマー」としてあります。 判明次第訂正します。



 それにしても,とギルベルトは思う。それにしても,随分と長い付き合いになって来たものだ。ローデリヒとか,ルートヴィッヒとか,エリザとか,それにこのエルマーとか。そしてこの年子の姉弟は,黙っていればちょっとした天使か何かのような外見をした,鬼のように喧嘩の強い姉弟になってしまった。エリザにしてもエルマーにしても,ギルベルトに勝ち目があったことなど滅多に無い。フランシスとアントーニョははじめからこの姉弟には手出しはしないから助けてくれない。結果的にギルベルトだけ不利益をこうむる。だってほらこの現状!
「なんで俺がテメェに着せ替えられるんだよ!」
 エリザならともかく!
 後半を口にしようものならば,きっと本人かシスコンの弟に殴り飛ばされるのは目に見えているのでぐっとこらえた。それくらいにはギルベルトは動転していた。ちなみに目の前のエルマーはすでに黒いタイトなワンピースに白衣を羽織ってノリノリである。スリットからのぞく足は人種的な問題で白く,長い蜂蜜色の金髪を後ろでピンクの花飾りで結んだその清純さだけが逆にいやらしい。さすがあのエリザの弟,女医コスに何の疑問も抱かないらしい。
 むしろ。
「だって俺が女医でお前がナースだったら,俺堂々とお前こき使えるじゃん」
「馬鹿やろう俺がテメェごときに屈すると思ってんのか!」
「ふーんエリザ姐さんに相談しようかな」
 これだからこの二人は本当にもう!
 この際エルマーの言い分を置いておいても,エリザを楯に取られた段階でギルベルトが出来ることなどさほど多くない。はたしてそれが恋なのかといわれたら,最近は少し疑問に思っている。が,エリザとエルマーの姉弟を,自分なりに守ってやりたいとは常に思っているのだ。一応。
(だってエルマー小さい時本当可愛かったし)
 ギルベルトも誕生日が早いので,誕生日の遅いエルマーが弟のようだった時期もあった。というかいまだにエルマーは時々その過去の特権を生かして甘えてくる。それがまた可愛いから無碍に出来ないのだ。つくづくこの姉弟には苦労させられている,とギルベルトはため息をつく。
 エルマーも何故かひとつため息をつく。
「んだよ」
「いや,お前が姐さん好きすぎてうんざりしただけ」
 何か隠してるな,とは思ったが,やはりそれよりも目先の危機感の方が強かった。だって,自分の席に追い詰められて,エルマーにいたってはその生膝を机に乗せてギルベルトを追い詰めていて,えらく美人だし,しかも手には男のロマン。
「ガーターは男の夢,なんでしょ」
「なんでそれをテメェに着けられなきゃなんねェんだ!」
「姐さんたっての希望だから」
 教室に衝立が用意してあって,一応理論上は向こうからは見えないはずなのに,なんだってまたそんな希望をしなきゃいけないのか。だけれども段々もう抵抗するのがめんどくさくなってきて,もうエルマーの腕を押さえつけていた手を放し,勢いで足を解放した。
「さぁガーターでもミニスカでも何でも来いってんだこのヤロウ」
 きゃーっと女子の歓声が上がる。こわすぎる。どこから見てるんだ。
 けれどもそれ以上にぞっとしたのはエルマーの笑顔だった。じゃあ,遠慮なく,といってエルマーの手が足首から膝へと這い上がる。ぎゃあ,と叫びそうになったが,空いたほうの手の人差し指を唇に押し当てられた。
「診察の時間だよ」
 白衣の裾が触られていない方の足をかすめた。
 表情はすこしだけ笑って,それ以上にその奥に真剣みがあった。
 やばい絶対喰われる。
 こくり,とつばを飲むと,まぁ童貞なんか見たって仕方ないかとあっさりその手は離された。は,と問う間もなく素早くガーターを着けられて,もうそれこそきわどいところを触られて悲鳴を上げそうになったが必死にこらえた。
 むかつく,のだが,その表情が少しばかり小さかった頃を思い出すように柔らかく笑っていたので,とりあえずは流されておいてやる。

***

ガリ男は姐さんに嫉妬。
かわいい。
文化祭中に進展させたい。

タイトルは「悪魔とワルツを」より。
20080920初出