スリルよりも早く
落とされたら楽になれると分かっているけれども。※Ghostのうずひさんに差し上げたく!
どこからそんな金が出ているのかと言えば高い学費なのだが,この学校はとりあえず金が余っているので清掃業者が入っている。高校生が掃除をしないなんて怠慢だとほざく人間が居ないこともないが,割とこの点に関しては生徒側からは好評だ。あたりまえだ。自分たちが掃除を回避できているのに贅沢を言えるはずがない。
従ってフランスにまず,北校舎三階のトイレの壁に落書きが,と言われた段階で疑うべきだったのだ。
北校舎は理科の実験棟なので,常に人通りが多いわけでもなければ,トイレを使う人間が多いわけでもない。しかしそういったところに落書きがあるというのは,生徒会の会長としては見逃せない。だから,フランスからそんな進言を受けた段階で,落書きから犯人を割り出すべく,仕方なしにイギリスは重い腰を上げた。
「で,なんだこの展開は」
不服さを隠しもしないで,イギリスはフランスを睨み付けた。現役生徒会長のこんな顔を見たら,気の弱い人間はうっかりすると卒倒しかねない。しかし,そこはイギリスと最も縁の長いフランスだ。音が鳴るのではないかと思うほど強く睨み付けたイギリスの視線を,これまた音が鳴るのではないかというほど明るい笑顔ではねのける。
「んん,ちょっと我慢できないかな,って」
「くたばれこのクソ髭」
「ひっど」
狭い個室の中でこんなやりとりをしているのはなかなかばかげている。
どれ,と個室を覗き込んだイギリスを,そこそこ清潔と言ってもトイレの,そうトイレの! 個室の中に押し込まれて。フランスは後ろ手で器用に鍵を閉めた。高い位置でひとつにまとめられた髪の裾が揺れるのがなぜか腹立たしい。そういえば北校舎とか言われた段階で察するべきだったかもしれない。
壁には落書きおろか傷ひとつないのだから。
「テメーの頭の中にはそんなんしかつまってねぇのか」
「今は否定しないよ?」
せめて怒るとかそういうことをしてくれたらいいのに,今は,とかいってフランスは己の劣情をあっさり認めた。そんな風に自分から攻め込まれたら,イギリスが逃げ場をなくして自分の中に落ちてくると思っているのだ,この男は。
さて,壁を叩き壊してやろうかと思ったが,校舎に好き好んで傷をつけたいとは思わない。
上手くかわさなければ,イギリスは一瞬視線をちらりと動かした。フランスは自分を捕まえて,便座に腰を下ろして,それで膝にでも乗せて,とでもいうつもりだろう。人通りが少ないと言ってもここは校舎だ。生徒会長が副生徒会長の腰の上で喘いでいる様など,到底他人に見せられない。
そんなイギリスの視線を追うように,フランスが一歩動いた。ポニーテールの裾も揺れる。その隙に,ひらりと身を捻ってドアとフランスの間に割り込む。こういう場合は変なことをするよりも逃げるほうが手っ取り早い。
個室の鍵に触れたイギリスの左の手は,しかし後ろからフランスの大きな左の手のひらに包み込まれてしまった。恨みがましい目を意識してきっ,とまた音が立ちそうな視線でにらみつけたのに,イギリスの指の股に自分の指を滑り込ませて来るフランスの仕草は妙に男を感じずにいられなかった。
「逃げないでよ」
自然後ろから抱きつくような形になるフランスが,イギリスの下腹辺りに右手を回してくる。そのまま少し下に手を滑らせる仕草自体に,その辺りに血が一気に集まってしまう。そのまま制服のズボンごと下肢をゆるゆると握られて揺すられる。うなじにかじりつかれる。無意識に細く息を吸い込んだ。
「ばっか何しやがる」
「イイコト?」
エロ親父みたいなこと言いやがってという罵倒は,耳をかじられて流れた。この男は悔しいことに声がいい。しかもフランスのほうは,イギリスが耳元でささやかれることに弱いことを良く知っている。むしろそうやって幾度も吹き込まれたから弱くなってしまっただけだとイギリスとしては言い張りたいが,あまり大差はない。
とにかく今重要なことはいきなり後ろから耳朶を吐息でくすぐられて,うっかり力が抜けた瞬間に,きつく閉じていた足に少し隙間が開いて,そこにフランスの片方の膝が割り込んできたことだった。がたん,個室の扉が大きく揺れる。鍵にかけた手がまた指の股をくすぐる。触られ慣れないところへの刺激は,イギリスの動きをどうしてだか制限する。
「だってイギリス立ってるだけでエロいんだもん」
「なっ…言いがかりつけてんじゃ,ねぇ…っ!」
フランスが口にした言い訳はまるでイギリスが悪いみたいで,っていうか立ってるだけでエロいってどういうことだ,とか聞き返したかったけれども,やわやわと下肢をもんでいるだけだったフランスの手が確信を持って制服のファスナーを下ろしたので,思わずイギリスは自由になる首を左右に大きく振った。そこまでいって,体が殆ど拘束された状態でフランスに良いようにされていることを漸く自覚した。
「やっだ…!」
「なんで,イギリスだって興奮してきたじゃない」
絶望的なほど正直な性器は確かに少しずつ芯を持ち始めていて,イギリスはまたいやいやと首を振った。だけれどもフランスが手のひらで亀頭を握り締めたものだから,たまらず膝から一度力が抜けた。がくん,と身が折れて,がたん,膝が個室の扉を揺らす。鍵を握り締めていた手が震える。そうして力が抜ければ,またフランスの腕の中に落ちてしまう。
「だって,学校なのに」
「だから,イギリスがエロいのが悪い」
だからってなんだよばかぁ!
叫びたかった罵倒は,フランスが吹き込む低い音と熱い息と,ちろりと耳骨を舐めた舌に溶けてしまった。
困ったことに,この,抵抗しているのだか従順になりたいのだかよく分からない状況に,それなりにその気になってしまっている。
「ああも…う!」
罵倒みたいな声はすぐに喘ぎ声に変えられて。フランスの手がやわやわと性器を握り続ける。たぶん焦らすとかそういう意図ではないのだ。ただイギリスを陥落させるためだけの手。
「イギリス」
湿った声で,ねっとりと耳の裏を舐められて。
もう一度膝が個室の扉に当たった。ここが学校だなんて忘れたわけではない。この男が勝手に欲情して自分はそれにつき合わされているだけだなんて理解している。それなのに,もうどうしようもなくなってしまうから,だから嫌なのだ。
「も…あたま,おかし,く,なる…!」
こんなことを言わされて。
フランスはそのイギリスの言葉を陥落の合図だと取ったのだろう。イギリスが鍵にしがみついていた手を解いて,くるりとイギリスの身を自分のほうに向かせる。そして個室の扉にイギリスの体を押し付けると,彼にとっては良いようなキスをしてきた。もう,息継ぎも出来ないほどこちらは追い詰められているのに。
仕方がないので手を彼の首の後ろに回す。
こんなところ,自力でどうにかして筋肉がつく場所ではないのに。フランスの首筋は妙にたくましくて,思わず爪を立てたくなったけれども,この男はそういう少しきつめの刺激に弱いから,これ以上調子に乗せてはならないと,その衝動は押し殺してキスにだけは乗っておいた。
***
ノリノリの兄ちゃんがさぞうざいだろうに,乗せられる自分のことを考えて自己嫌悪にふるふるしてるイギリスのこと考えたら自分がふるふるしました。
いいなあ高校生青くて。ときめきマックスハート。兄ちゃんも我慢できないんだぜ。
うずひさんどうぞお納めくださいませ!おおお遅くなりましたごめんなさい大好きです。(どさくさ)
20081230