終わらせてあげたい

言い分がひどくても,愛はある。


 いまからでも,そのあざやかな目の奥にある翳りだけでも,せめて自分なんかにひっかかってしまった運のなさだけでも,どうにかなるならしてやりたいと思う。だけれども,それを誰が望むのかと言えば,少なくとも当人同士が望んでいないことは又一つの事実なのだ。
「何なの」
 フランスの手がイギリスの頬を撫でた。何なの,だって,この状況で! イギリスは笑い飛ばしてやりたかったけれども,うまく笑う前に酷い声が零れそうなので口角を吊り上げるだけにとどめておいた。もちろんフランスはそれに気付いている。
 仰向けに寝転がったフランスの上に跨って,右の二の腕を頬に沿わせ,そのままフランスの頭をかき抱くようにしているイギリスの姿は,たぶんどう見てもいとおしい関係になければ出来やしないことだ。不毛さから逃げられないのは,お互い様のはずだから。
「べつに」
 だからイギリスはそう答えた。仮に下からまさぐってくる手がいいところを掠めて息を呑もうと,それは彼に知られて得なことではない。
「だって,そんな顔」
「どんな顔だよ」
「怒ってるみたい」
 言いながらフランスはこれっぽっちも自分に対しての遠慮など持ち合わせていないようだった。お互い様だ。怒ってなど,いないし。たぶん,もう諦めてしまったのだ。いろいろと,手に入れたかった彼のすべてを手に入れることなど出来るわけもなかったし,そして終わらせようと思えばお互いにこうやってまた繰り返す。下らない。結局離れられやしないのは,自分たちの距離感の未成熟さゆえだろう。
「イギリス」
 青い目がこちらを見た。
 この目をまじまじと見たことなどそれほど多くない。
 ただ行為の最中はやたらと甘いのが欲しくて,そうなると結果的に彼の甘い声と甘い目に蕩かされるのも悪くはない,気がする。フランスが身じろぎをしたから,頭をかき抱いていた腕にフランスの髭が当たる。その感触は,彼のものだから,悪くはないのだ。
 可哀想なフランス。
「大好きだよ」
「俺も」
 自分なんかに捕まって。
 余りに下らないやり取りに少しだけ笑みがこぼれた瞬間,計ったようにフランスのしなやかな指が体を穿つ。ねえ,なんで俺なんかを未だに構うの,とか言えば可愛げがあるのだろうか。真実は分かるのだろうか。体を開くだけなんてその気になれば誰にでも出来る。だけれども好き好んで繰り返すことはどうしても他には出来やしない。
 今更そんなことを確かめて,何になると言うのだろう。
 指が掠めた場所が熱くて悲鳴を上げると,フランスは嬉しそうな顔をした。
 だけれどもあまりの気持ちよさに目を細めたイギリスはその表情を見損ねた。

***

結果主義のイギリスと経過主義のフランス。
たぶんちょっと手を加えると思います。
20081018初出