ずるいと思うと伝えてみたい
でも,きっと自分の声が形になる前に,融けてしまいそう。
距離を詰められて,咄嗟にいい反応が浮かばずに両手を顔の前でクロスしてせめてキスだけは防いだ。我ながら,こんな可憐な女の子みたいな反応は無い,なぁ,と思いながら,腕の隙間から窺えるフランスの顔は不満そうだったから,訂正。こんな色魔に付き合ってられない。
「それは,無くない?」
「無いのはお前だばか,昼間だっつの」
低い声で囁かれると,なぜか自分が悪いような気になった。いや絶対そんなはずは無い,と思う。だって,昼間だ。まだ。付け加えて言うならばここはフランス領で,自分は気を抜けばどうなるかわからない,なんてさすがにそんな言い分はもうこの時流では通じないって言われたら困るけれども。それでもフランスが適当な身分証明で借りたアパルトマンの薄い壁が当てになるかどうかも分からなくて,大体そもそも自分は書類を届けに来ただけのはずで,
「イギリス」
低い声が空気を震わせて,粘り気を帯びて鼓膜の内側から脳髄まで入り込む。駄目,今顔を見たら絶対に全て融かされて,と思ったからイギリスは目を閉じた。元々逆らえる道理なんか無い。わかってはいる。だけれども,それがどうにかできるかといえばそれはまた別次元で。
「好きだよ」
好きだってなんだよ好きならやることできるのかばーか。
と思ったけれども,その低い声が鼓膜を通り越して脳髄を破壊して,だからけっして開けてはいけなかったはずの目を開けて腕の隙間から見えたフランスの青い目が,こんなときばかりの真剣さでこちらを見ているものだから,イギリスは思わず腕を外してしまった。そうしたらやはり,とりあえずと言わんばかりにきつく抱きしめられた。
「理不尽だ」
呟いたけれども,理屈なんかどうでもいいよ,とフランスがあの声で囁くものだから,本当にそんな気分になってしまう自分が,悔しい。
***
小野坂がぜんぶ悪いんです。
これが孔明の罠なんです。
ちがうだろフランスお兄さんだろ。
(よく分からなくてすいません)
(要は中の人つながりで声萌えの話が書きたかったのです)
(自重!)
20081007初出