積年の切れ端


「欲しいと思ったものは,なんだって叩き落す。周りにあるもののことなんか知ったことじゃない。いくら周りが勘違いをしようとも構わない。ただ俺は欲しいものだけは必ず手に入れたいんだ」
 随分と強気にものをいうなぁと,フランスはイギリスを見た。バーカウンターに並んで,時々言葉を交わしながら飲むこともう二時間になるだろうか。今日は比較的大人しい。呼びたてたのは彼のほうだ。向こうの夜八時に呼び出して,やりたいことの結論なんて決まっている。ただ恋愛というのは厄介で,精神と肉欲は別物だと一度考え出せば雪崩れ込むまでに少しばかり用意が必要だ。つまるところこれは,結論の見えた茶番だ,そう思いながらフランスはふぅん,と聞いているようにあいずちを打つ。
「俺はお前なんか別に欲しくないよ」
「そう」
 フランスはもう一度,イギリスの言葉に頷いた。これは,嘘だ,と思う。それならば彼は多忙な時間のなかで思いついたように「今晩暇か」というだけのシンプル極まりないメールを送ってくるはずがない。彼は暇だからと言って誰かと酒を飲んで誰かと夜をともにしなければならないような性格をしているわけではなくて,ただ単にフランスが欲しいからフランスに連絡を取るのだ。これは確信に近い慢心だった。
 だって彼が連絡を取るのなんて自分だけのはずだから。
 それとなく,そんなくだらない独占を確認して保証を求めている時点で,自分も大概彼を欲しがっていることは自覚はしている,一応。
 だから,揺さぶるのだ。
「お兄さんは,イギリスが欲しいよ」
「誰がテメェなんかのものになるか」
 国民が泣くだろ。そうやって装いながら,イギリスはまた何か取り繕うそぶりを見せるけれども,フランスは内心でだけ思うのだ。
 イギリスがフランスを欲しがるならば。そしてその本質は,周りなんてどうでもよくて,ただフランスを欲しているのならば,せめてフランスがイギリスを欲しがってやろうと。そうすればくだらないという顔をしながらイギリスは欲しがるがままに満たされる。フランスだって,イギリスが欲しいからそれで満たされる。ただ与えることで欲する彼を満たすことで,フランスは満たされる。

「愛してるよ,イギリス」

***

ちょっと下に書いた学パロの成れの果てのただれた大人たちです。
欲しがってるのに口をしないイギリスと,見越したように与えて自己満足を得るフランス。
なんかちょっとこの二人が見えてきました。いとしいぞ。

タイトルは「悪魔とワルツを」より。
20080830初出