Boys, be Gentlemen!!

※英会長,仏副会長 愛称です


「欲しいと思ったものは,なんだって叩き落す。周りにあるもののことなんか知ったことじゃない。いくら周りが勘違いをしようとも構わない。ただ俺は欲しいものだけは必ず手に入れたいんだ」
 その発言に多分一番動揺したのはほかならぬ俺に違いない! とフランシスは思う。えっお前何大声で自分の恋愛観を告白してくれちゃってんのという動揺である。加えていうとさらにその中の何処に自分がいるのかという動揺まで含まれている。腐れ縁とか幼馴染とかあからさまに恋愛に有利な要素を持っているはずなのに,頭を抱えたくなるほどの動揺である。
 アーサーは言い切るだけ言い切るとにこりともせずに紙コップに入ったインスタントコーヒーを飲みほして,まずそうに顔をしかめた。お前インスタントにすら失礼だ,自分の料理の腕を差し置いて。普段ならそういう軽口を叩けるのだろうが,ちょっと思考が固まっている。こういうとき生徒会室の空気を読まずにぶち壊してくれる男は,今日は補習で呼ばれてしまっていていない。アル,あの馬鹿野郎とでも言おうものならばまたアーサーの蹴りが飛んでくるのでそれは勘弁願いたい。
 珍しくフランシスの悪友達が生徒会室に来たと思えば,どういうわけか知らないが恋話のターンである。おおかたギルベルトがエリザベータに蹴り飛ばされたとか張り倒されたとか殴り飛ばされたとかそんな理由だろう。珍しく静寂の中で仕事をしていたアーサーははじめ珍客の来訪に機嫌を損ねたが,アントーニョになだめられて,ひどい勢いで落ち込んでいたギルベルトを流石に不憫に思ったのか,フランシスの悪友と会話をしている。ちなみにこの会話がなされていること自体が奇跡だ。
 アントーニョが,ところで会長はモテるんか,と尋ねたところからこの会話に入ったはずだ。俺ほどじゃないけどな,とフランシスがにやついて言ったら,耳の横を尖ったシャープペンシルの先が掠めた。かわいげを発揮して大人しくしてやれば,まぁモテるかどうかは知らないが,興味がないとアーサーは言い切ったのだ。
 ギルベルトが落ち込んでいる中だったので,本当にこの幼馴染は空気を読めないと思ったら,畳み掛けるようにアーサーは言ったのだ。
「欲しがられるよりも,欲しい者を手に入れるほうが性に合っている」
「へェ,アーサーって意外と積極的やねんなぁ」
 こういうときのアントーニョは天然にしてタラシだ。ナンパの成功率も意外と高いことも頷ける。ついでにアーサーの恋愛傾向も聞き出しちゃえよと思っているフランシスの願望を見事に叶えてくれる。
「じゃあ,どんな恋愛をしたいん?」
 そうして,アーサーの言葉に戻る。

 正直,好かれていないわけではないと思う。けれども,彼の言うところの周りにあるものに自分が含まれるとすれば,これはいままで自分が彼との関係において,周囲(それこそあの空気を読めない男とか!)に対して有していると思っていたアドバンテージが全否定されるわけだ。だっていくらアドバンテージがあろうがなかろうが,彼にとって自分が興味のある存在で無いとすれば,意味が無い。
 やばい,お兄さん泣きそう。
 自分と逆行して少しだけ息を吹き返したらしいギルベルトが,おそらく興味だけで尋ねた。
「今,お前にそんな相手いるのか?」
「ああ」
「えっ意外や! デキてんの?」
「いや…嫌われてはいないと思うが」
 候補を数えてフランシスは泣きそうになった。本命がアル,対抗が菊,穴がイヴァンか王か,ただアーサーがどれを欲しいと思っているのかといえば,どれも決定打には欠ける気がした。いや,もしかしたら自分が知らない相手かもしれない。幼馴染だから彼の全てを知っていると思って慢心していたのは自分だ。
 もうだめ,落ち込んで死ぬ。

「もうあんまりにも付き合いが長過ぎて,叩き落そうにもそういう相手として見て貰えないんだ」

 アントーニョとギルベルトが何か聞いてはいけないものを聞いたように一瞬固まったが,フランシスはそれどころではない。もう俺がそいつ叩き殺してやる,と思って少し泣きそうだった。

***

途中までアーサーの思いとか全部知ってて余裕綽々の兄ちゃんだったのですが,いや高校生…高校生…と念じてたらこんなギャグ出来損ないになりました。アーサー氏の台詞は本設定で一回は使いまわしたい。
20080823初出