飼い犬に噛まれ,その代わり毒をあげるよ

「イギリスさんが急に素直になられたら,どうなさいますか」


 日本はフランスの胸元を見ていやな顔をしながらいった。それもそのはずで,いまフランスの開襟のシャツから見える鎖骨の下には,それはもう見るからに痛そうでいやらしい噛み跡がある。フランスはもちろん,誰かにそれを指摘されるためにその格好をしているのだが,日本はとりあえず聴くだけは聴いてやろうと思ったらしい。ただこの男,大人しそうなきれいな顔をして内面のぶっ飛び具合が半端ないから,もしかしたら何かたくらんでいるかもしれないけれど。
 フランスはそして首を傾げた。
「素直なイギリス,ねぇ」
 果たして素直だった頃があったか考えて,そういえばあの子は小さい頃から知っている,とフランスは思った。
 思いながら,げんなりする。
「付き合い長いけど,あいつ小さいころから素直だったこととかないし」
「それはそれで萌えますが」
「大体これ以上なんか望んじゃ罰が当たる」
 日本の不穏な呟きは無視して(いやわかるけどねお兄さん,素直じゃないあの子の小さい頃ったらほんとうにかわいかった。天使以外の何物でもなかった),彼の極度の反抗期を思い出しながら,そういえばあの頃は本当にへこたれたような気もしておかしく思う。
「1回あいつに離れられたのは,堪えたからね」
 飼い犬に手をかまれながら,それでも綺麗なものが好きなフランスは,それはもうまたとないほど生の気配を振り乱しながら剣を振り回すイギリスを,ひどくいとおしく感じたものだ。遠のいていこうとする彼をわざと手放したのだって,どうせ彼は戻ってくると信じていたから。
「今更少々噛まれる位で,素直になんかならなくていいよ」
「貴方の血には中毒性がありそうですものね」
 日本がぴしゃりと言った言葉に思わずフランスはにやりとした。
「日本,やっぱ見る目あるね」
「あの方だけにしか効かないですから,お忘れになりませんように」
「でも可愛いのもいいけどね,あいつが,本気で俺を殺そうとするくらいが一番愛しいよ」
 自分の血管を回る毒を精製しているのは間違いなくイギリス自身なのだが,それを知らないままでいてくれたほうが良い。フランスのあざをもう一度を見て日本は,肉を切らせて骨を断っているって言うんですよそういうの,と教えてくれた。

***

フランス兄ちゃんは本気の相手にはちょうかっこいいと信じている。
ってことでイギリスのことを話すときにちょうかっこいい兄ちゃんがテーマでした。
ヘンタイ臭い(それ中の人のことですよ)。

すっごくどうでもいいのですが,本サイトでやってるジャンルの俺の嫁からHNの苗字持ってきたので,普段の活動なら苗字を一人称にするのですが,とっても落ち着きません。山崎,ごめん。
20080812初出