夢のはなし

やたら貴方の夢を見る


 昔,それはもう遠い昔。
 デンマークの家で大暴れした彼はやっぱり当然のようにとっちめられて,閉じ込められていた。その部屋にこっそり夕食でくすねたパンを持っていくのが,フィンランドにとって,仕事というにはあまりに勝手にやっていることだった。(大体そもそも彼は食事を与えられていなかったんだから!)
 そのときまともに話すことができなかった彼を,ただかっこいい,逞しい人だなぁと思って見ていたのを覚えている。今のように,ぱちりと目を開けたら当然のように彼が隣に寝ているのではなかった,ただ憧憬を抱いていた感情は,強いて言うならばきっと恋に近かったんだろうと思う。
 目を開けるともう東の空は白み始めていた。夏のこのあたりは夜が短いから,きっと時刻でいうとまだ早いだろう。けれどもスウェーデンはもう目を覚ましていて,正式な服装に袖を通し始めていた。今日は二人も出席する会議があって,大体そういう会議場はパリとかベルリンとかだから,二人は朝早くから支度をしなければならないのだ。そう思いながら,フィンランドはスウェーデンの大きな背中にある昔の鞭の跡を見つけて,スーさん,朝かな,とかすれた声で彼を呼んだ。
 まだ眼鏡をかけていない彼は,眼鏡をかければいいものを,横着してまだ寝ぼけ眼のフィンランドのそばまで顔を持ってきた。端正な無表情はやはりかっこいい,逞しい。けれどもその傷跡を見たり,彼の寝ぼけ眼を見たりもして,ただの恋はこれくらいでちょうどいいところに落ち着いたのだ。
「朝御飯つくってやっから,ゆっくり支度するとええ」
「ん,そうします」
 寝起きで乾いたままのフィンランドの唇に,たぶんもう水を一口飲んだのだろう,少しだけ湿ったスウェーデンの唇が触れた。心地いいなぁと,フィンランドは呑気に思った。触れたところからしっとりとしたあたたかさがじんわりと全身に及んで,思わず呟いた。
「ずっと,こうしててくださいね」
 朝は起きてキスを,食事を共にし,一日を二人で労働し,そして抱き合って眠る。触れることも話すこともできなかったあの頃を埋めるように,ずっと一緒に。
 フィンランドはそういうことを意図して言ったのだが,スウェーデンのキスは止みそうになかった。これ以上されたらきっとおきれなくなる,というところまで幸せを羽根布団にからめ取られてから,だああだめですぅと言いながらフィンランドは起き上がった。
「会議に遅れますよ」
 スウェーデンは名残惜しそうに,けれども他には滅多に見せないようなやわらかな微笑を浮かべて頷いた。恋が安心出来るところに落ち着いたこの関係性を,彼とずっと守っていきたいと,白む空を横目にフィンランドは少しだけ思った。

***

Kちゃんへ,あれのお礼です! 好きしてw
っていうか偽者過ぎるだろうこれ
スーさんは天下のイケメンカウントでいいんでしょうか。
フィンは天下の嫁カウントでいいんでしょうか。あ,女房ですねわかります。

Kちゃんの夢に山崎本人が出たり,あっち(どっち)の山崎が出たりしたらしいので,どうやらKちゃんと山崎の間には夢の通い路があるようですw ちなみにあっち(そっち)の山崎,呑気に時々待ってますw
20080819初出